●下記インタビューページはindieBangからの転載です。


     

今回登場のことぶきさんは、80年代よりコンピュータを導入した音楽を作り始め、2度に渡るP-MODELへの参加やさまざまなレコーディングやツアーにて活躍された人。詳しくはプロフィールを見て頂くとして、テクノ/ニューウェィブ世代にはピンとくる人も多いはず。今年6月、ソロ音源としては初のアルバム『mosaic via post』を発表。この作品は現在住の札幌と、海外や東京のアーティスト達と音源を行き来させて完成させたと言うが、意外にもその手段は郵便だったという。さらに、行方不明と言われたアジア、アフリカ旅行時代の話からパーソナルに迫りお届けします。





----コンピュータを取り入れた音楽作りというのは、いつ頃から始めたのでしょうか。

:学生のときに、ちょろちょろもて遊んでいたんですけど、最初のMSXなどの時代ですね。仕事ではアーケードゲームにそういった自動演奏を使っていましたね。15年くらい前でしょうか。
----ことぶきさんにとってコンピュータの面白さ、醍醐味ってなんでしょうか。
:別に、唯の道具だから、なんだろうか……ずっとコンピュータでしかやっていないからねぇ。そういう意味では皆と“セーの”でやったりすると緊張しますね(笑)。というかそういうのやりたいんですけどね(笑)。僕、今は札幌に住んでるんで、なかなかそういう機会がなくって。たまに“ワン、ツー”とかやると燃えますよね。
----そうですか。例えばP-MODELにも2度に渡って参加されるんですけど、デジタルというか、そういうイメージがあるんですよね。
:P-MODELでコンピュータを使い始めたのは、平沢さんのソロを経て復活したときからですね。それまでは、一切、同期とかもなかったですね。こういっちゃあ何ですけど、いわゆるコンピュータは、楽器についてるシーケンサー程度しか使っていないと思うな。だからデジタルっぽいイメージってあったのかもしれないですけど、少なくともライブは全部人力ですからね(笑)。だからループっぽいのをバックにした演奏もあったんですけどそのシーケンスってカセットテープですからね(笑)。でも、これが普通 だったと思いますよね。
----それでは今年の6月に出た『mosaic via post』というアルバムについて聞かせて下さい。まずは出発点からいきましょう。
:それまでPhnonpenh Model(プノンペン・モデル)という、P-MODELのにせ物バンドみたいなものを作っていたんです。去年、渋谷でライブをやり、カラオケルームみたいなところでの打ち上げの話からですね。その時の出席者が全員キーボーディストで、具体的に言うとライオンメリイ、MOMOくん、福間創くん、山口慎一(YAPOOS)、斉藤哲也なんか。そこで斉藤君が「じゃあ、ことぶきさんが皆の音源を集めて一枚作らないとだめですよ!」なんて言い出して(笑)。それで始まったと思うんです。取りあえずそこにいた人は全員参加。さらに僕が「オ・ン・ゲ・ン・モ・ト・ム……」という文章を作ってミュージシャン仲間にメールで送って音を集めて、という感じです。
----へえ、面白いアイディアですね。
:一応条件としては、今、ネットワーク云々ってどこかにサーバを立ち上げて、そこに突っ込んでというやり取りが一般だと思うんですけど、郵便に限定しようと(笑)。だから郵便が新しいぞ、と『郵便ポストミュージック』って名付けて。結局、皆インターネットとか使ってるんだけど、よくよく考えて、大量の情報送るときの待ってる時間やトラブルなんかのストレスを考えたら郵便って速くて便利だなあって(笑)。例えばデジタルネットワークもだんだん速くなってるとは思うんだけど、それに比べて郵便のスピードの方が全然速いなあって思って。札幌に住んでいても、ついこの間、翌朝便(翌朝10時郵便)ができたと思ったら、もう当日届く便(新特急郵便)があるし。『mosaic via post』はアメリカやヨーロッパともやり取りしてるんだけど、いわゆる時差を考えたら出す前に着いちゃったりするんだよね(笑)。それって断然速い、これからは郵便だって(笑)。デジタルのネットワークが1000倍にでもなれば別なんだろうけど、ヨーロッパなんかじゃ今でも普通に電話線使ってるし。料金やスピードを考えたら全然グローバルじゃねぇなぁ、なんて考えたりして。それに比べたら郵便だろうって。
----郵便なんて随分ユニークなやり方だなって思ったんですが、実は実用性からだったんですね。
:僕の場合はずっとそんな感じですよ。今、インターネットって旬な感じがしないじゃないですか。旬な感じがして尚かつ速いというのがスピード感っていうか、自分の感覚としてやる気が起こるというか。結局モチベーションの問題だから。理屈をつけて、それが嘘でもどうやって自分にやる気を起こさせるかってことだから。それを考えたら少なくとも今、インターネット以外の方がたくさんあるというか……。しまった、今、インターネット媒体の取材でしたね(笑)。しかも当たり前になっちゃって、皆で“セーの”、の方がドキドキするのと郵便ってのが同じなのかも。そういえば、この間、何人かで話してて、子供の頃「相手の目を見て話しなさい」って言われたことってあると思うんだけど、実際は誰もそんなことしてないって(笑)。皆、よく目を見て話しができて凄いな、なんて思っていたみたいだけど(笑)。やっぱり違ったって事ってよくあるじゃない。例えば、メールで仕事の依頼や質問なんかを出してて中々返事が返ってこなくてどうしようって時、その人に電話したら方が早いなんて話(笑)。意外と気がつかないところに盲点があって、忘れがちなんだよね。




----(笑)。質問を次に移したいんですけど、プロフィールに“一時、旅行にのめり込んで行方不明”なんてあるんですが、当時のお話を聞かせて下さい。
:何だろう、何か飽きてたんじゃないかな。アパートを引き払う一週間前に腹膜炎で入院したんだよね。病院からライブか何かの仕事へ行って、そのまま横浜から黄色いカバン一個で船に乗って上海へ行ったんだ。当時、内戦をやってたカンボジアに暫くいたりして。そして帰って来てP-MODELのライブを野音でやったのかな。だから楽器も何もなくって(笑)。演奏が終わったら、当時の事務所の社長に「Phnonpenh Modelのアルバムを作るぞ」と言われ、スタジオに寝泊まりしながらP-MODELのライブ盤とPhnonpenh Modelと変なMIX盤の3枚を2ヵ月で仕上げて……。それでまた旅行へ出かけて行くんですけど帰ってきても家はないわけで、それで北海道へ来たんだよね。
----昔から旅行はお好きなんですか。
:最近はバンドで行くことも多いんだけど、例えばパリで仕事があったら西アフリカがちょっと近いな、とか。そんな感じでトランジットで寄った国にしばらくいるとか、近所の国を回るとか。もちろんその時は仕事はないですけど、結局いたら何となく友達ができて、友達になると何かしがちじゃないですか。そのまんまずっとやってるって感じですね。後、旅へ出るのは健康のためかな(笑)。忙しいのはいいんだけど、忙しさ自慢をするヤツっているじゃないですか。俺はナンヤカンヤで3日間寝てないってそれ病気だぞ! って(笑)。絶対病院行った方がいいって、不眠症じゃん。3日間寝てないって、病気かクリエティブハイかどっちかじゃない。だから俺は病気か、メチャクチャ才能があるって自慢してるかのどっちかじゃない(笑)。いくら起きてても、作品できないと寝ちゃうじゃん。そういうのってどうかなあって。そういうのを考えたら旅行って健康にいいなって。入院してるときに医者に聞いたんだけど、朝起きて夜寝る、何でもいいから3食ちゃんと食べりゃ治るよって。旅行ってそれができるんですよね。それで帰ってくると前より健康になってたりしてね(笑)。それを札幌でもできないかなって、発見したのがキャンプ。午前1時に仕事をやめて、2時に着いて、まだ暗いから寝るのね。朝起きて、……起きちゃうんだよ。で、自宅に帰ってシャワーを浴びてスタジオに戻る。これは旅行に近いなって。キャンプはいいですよ。だから僕が音楽やってる目的って健康かもしれない(笑)。
----(笑)。この記事がアップする頃には終わってると思うんですけど、ライブ(11月29日、東京・初台DOORS)に関しても聞かせて下さい。
:いやあ、普通の音楽を演奏するだけだと思うんですけど(笑)。いやっ、分かんないんだけど、大抵のミュージシャンはそう思ってると思いますよ。ライブなんて決まった曲を演奏するだけだよ(笑)。せいぜいメンバーが変わるくらい。そんなの普通ですよ。普通の音楽やってるだけ。ホントそう思いますよ! それがおかしいって言うのなら、オマエがおかしいんだよ(笑)。でも、アーティステックな発言をした方がお金をもらいやすいって戦略はあると思うんですけど(笑)。
----(笑)。最後に、近況を報告して下さい。
:次のアルバムを制作中です。何かと押してて、来年の早いタイミングには出したいんですけどね。
----これもまた音源が郵便で送られて来るのでしょうか。
:いやあ、だからさあ、2回目になると皆も怠慢になって、「取りに来い」とか言われたり。後は東京の人って札幌に来たがるじゃないですか。打ち合わせついでに持ってくる人もいますよ。まだどうするかは決めてないんですけどね。でも大体こういうものなんですよね。締切りも守らなくなるし(笑)。
----もう一つありました! 自身のHPで日記を公開されていますね。
:最近は書いていないんですけどね。日記を公開するって世の中で2番目くらいに恥ずかしい事だと思うんですよ。でも結構皆それをやってて、あんまり電車の中で着替える女子中学生の事を悪くも言えないなって。自分たちも結構皆恥ずかしい事してんなって。そういうことの一環なんだけど、でも人に見せるものだからさあ、信用しないほうがいいよ(笑)。……あのう、音楽のこと話さなかったんですけどいいのでしょうか?
 
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2002年11月、インタビュー:中島儀幸